今回は不動産の売却にも大きく影響することがある「相続時精算課税制度」のメリットの他、使わない方が良いケースや注意点についても解説いたします。
相続したい現金資産や不動産がある場合、「相続にかかる税金が不安」など、不安になる点は多々あると思います。
相続時精算課税制度とは、相続税と贈与税を一体化した制度で、親から生前贈与を受けたときに贈与税を支払い、その後、親が死亡して財産を相続するときに相続財産に組み込んで相続税を課税するという仕組みです。
言い換えれば、贈与及び相続により取得した財産の合計額をもとに相続税を計算し、その税額から既に納付済みの贈与税額を控除した額を納付する制度です。
そしてこの特別控除は、1年につき2,500万円ではなく、贈与者一人につき2,500万円です。
贈与する側は生きている間、2,500万円に達するまでは金額、回数、贈与財産の種類についても何の制限もなく贈与できることから、贈与税を負担することなく生前贈与を受けることができます。
また、従来と違い2024年1月1日以降の贈与からこの制度を選択し届出をして贈与すれば贈与税の110万円控除が併用できるようになり、贈与税の申告も必要なくなりました。
60歳以上の祖父母または親から18歳以上の子供または孫への贈与という制限がつけられてはいますが、贈与する金額が控除額の2,500万円を超えた場合でも、超えた部分については贈与税の税率が一律20%と極端に低いです。
通常、この制度を利用しない場合の贈与税は累進課税となっており、2,500万円を超えた金額に対しては税率が45〜55%もかかることを考慮すると非常にお得な制度と言えます。
一方で、この制度は生前に贈与した対象物については、相続が発生した際に相続財産として含めた上で相続税額を計算することになるため相続税が節税できるものではなく、「相続税の基礎控除額の先取り」と捉えると理解しやすいです。
状況と使い方次第で大きな節税対策になる「相続時精算課税制度」ですが、相続するとき、生前贈与した財産額を相続財産額に加算した上で相続税の額を計算するため、税金の先送りになることも事実です。
従って、節税対策としてどなたにもおすすめできる制度ではなく、節税効果が高い場合もあれば、利用しない方が良い場合もあります。
- 相続財産の総額が基礎控除の範囲内である場合
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相続では、不動産や現金預金、株式などの財産に相続税が課されます。
相続税は、基礎控除や、配偶者税額軽減などの措置があるため、一般のサラリーマン世帯には生前贈与による節税が必要になるケースはそれほど多くないかと思います。
だからこそ、相続時精算課税制度は、相続税の基礎控除額内の資産しかない、つまり、そもそも相続税がかからない上の世代から贈与する場合には、非常にお勧めです。
もし、相続税の基礎控除額に収まる程度の一般家庭の資産規模であれば、相続税も贈与税もかけずに生前のうちに2,500万円以内の財産を贈与することが可能です。
では相続税がかからないぐらいの財産はいくらなのでしょうか。
相続税の基礎控除額は次の計算式で算出され、控除額を超えなければ相続税はかかりません
※相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
具体的には、たとえば次のように3,600万円の財産を持っている父が息子に1,500万円の贈与をした場合、相続時精算課税を活用すれば贈与税は2,500万円まで非課税なので、息子は贈与税を支払う必要がありませんその後、父が亡くなった場合、相続時精算課税で贈与した金額の1,500万円と相続時の財産の2,100万円を合わせても3,600万円となり、基礎控除額(相続人が1人の場合は3,600万円)の範囲内なのでギリギリ相続税は課税されません。
このように相続税がかからないぐらいの財産を所有している親が、子供に多額の資金援助をしたいという状況であれば相続時精算課税は非常に有効です。実際、相続時精算課税が活用されるのはこのような場合がほとんどですので、不動産の評価額やその他の資産の金額を把握して、相続になったとしても相続税がかからないことを確認する必要が有りそうです。
例えば、周辺に開発計画があり将来、価格が上昇しそうな土地や、将来が期待できる株などの財産を制度を活用して贈与すると、将来の相続時に、上昇する前の評価額で相続税の計算をすることができ、節税効果が高いです。
そのため、土地などが、一時的に値下がりしている時なども贈与のタイミングと言えます。
兄弟姉妹など、相続人が複数人いる場合や特定の方に相続したいと希望する場合にも、この制度は有効に活用できることでしょう。
この制度を活用して生前に贈与を受けた財産は、相続時にも贈与を受けた方がそのまま相続することになります。
そのため、相続したい方に確実に財産が渡ることとなり、相続でもめないようにすることができます。
親から子などで会社事業の継承がある場合は金額が大きく、贈与する金額が年間110万円の基礎控除額以内にはならないことが多いと思います。
そんなときにこの制度を利用すると、事前にある程度の資産承継ができるというメリットがあります。
また、多大な相続税を支払う場合は現金の準備が困難な場合も多いので、相続税の支払いまで猶予期間を設ける意味もあります。
また、賃貸経営などをしている場合は生前に贈与すると、不動産賃貸収入が贈与する側から贈与を受ける側の収入となることで最終的な相続資産が減り、節税につながります。
この制度は、将来の売却に備えて、高齢の親と共有の自宅不動産の持分を子供に生前贈与する場合にも有効です。
高齢の親の持分も入っているため、いざ売りたいとなった場合、親が認知症等になり売却できなくなる恐れがあります。
共有不動産を売却する場合、共有者全員の同意のもと売却するのが原則です。
したがって、共有者の中に認知症等で意思表示できない方がいらっしゃると売ることは不可能です。
認知症の方に成年後見人を付ければ売ることはできますが、後見人選任には数ヶ月の時間を要するため、その間に売り時を逃してしまう可能性もあります。
その他の様々な理由により、使用していない土地や空き家など不動産を生前贈与により取得をしてから売る方もいらっしゃると思いますので、この場合も制度を利用するのがおすすめです。
基礎控除額を超える資産をお持ちの方で相続税がかかる可能性が高くなる方、限定のお話ですが、贈与する方とされる方が同居している場合の土地の贈与では、相続時に評価額を減額できる特例を使えなくなることに注意が必要です
土地の相続に関しては「小規模宅地等の特例」というものがあり、亡くなった被相続人が住んでいた土地について、330㎡を上限に評価額を80%減額できるようになっています。
この特例は、被相続人が亡くなった後、遺された家族が相続税の負担により自宅を手売却しなくてはならないような深刻な事態を防ぐためのものです。
相続時精算課税制度を活用した場合、この特例を使えなくなるため、土地の評価額が減額なく相続税が加算されることとなり、かえって損する結果にもなりかねません。
また、土地の贈与に関しては贈与税や相続税以外の税負担があるため、逆に税負担が増える可能性もあります。
贈与に伴う不動産の取得には「登録免許税」と「不動産取得税」が必要となり、登録免許税は固定資産税評価額の2%、不動産取得税は固定資産税評価額の3%の税率で課税されます。
一方で相続時にかかるのは、登録免許税が0.4%で、不動産取得税はかかりません。
この制度は、条件が揃えば、子が住宅を購入する時などに利用できます。
また、贈与されたお金をローン返済に充てることで金利負担を減らせたり、賃貸アパートを買うことで収益を得られます。
但し、他の相続人との間でトラブルにならないように、贈与される財産以外の財産については遺言書を作成してもらうなど、何らかの対策をする必要があります。