債権回収の有効な手段の一つとして「仮差押」があります。
仮差押とは民事保全法による裁判所からの財産保全命令です。
もう少し詳しく言えば、金銭債権について「その財産を差し押さえる用意があるので勝手に処分してはならない」とする裁判所からの財産保全命令です。
仮差押は本差押と同様に不動産や、家財道具などの動産、預金口座、債権、有価証券等が対象となり、場合によっては給料を仮差押する場合もあります。
従って、債務者が不動産を所有している場合は、仮差押できる可能性があり、不動産に他の債権者の担保が設定されていても仮差押は可能です。
債権回収でお困りの方は、検討なされてもよいと思います。
仮差押えと差押えの違い
例えば、お金を貸したけれど返済してもらえないとか、物を売ったけどお金払ってくれない、報酬を払ってもらえないときは、「支払督促」や「訴訟」を起こして判決をもらって支払いを命じてもらうのが通例です。
ただ、支払督促や通常の訴訟というのは決着に相当の時間を要し、確定判決まで半年はあたりまえで、特に双方の主張が対立する裁判では2年を要する場合もあります。
仮に裁判に勝ったとしても、その間に債務者が財産を売却、隠匿してしまったりすると、勝訴しても相手のお金がなくなってしまって財産を差し押さえることもできなくなってしまいます。
これでは、強制執行をしても満足に債権が回収できないという事態になりかねません。
そのような事態を避けるには、予め価値ある財産を仮差押する事で財産の処分や隠蔽を防止し、財産の保全確保したうえで訴訟を提訴する事により確実に回収する事が出来ます。
訴訟を本格的に起こす前に「こういう証拠がありますので、保証金も積みますから裁判所の力で仮に差押えておいて下さい」として、債務者が財産を処分できないように、先に差し押さえてしまう方法が仮差押です。
仮差押をして判決が出ればそれが「債務名義」となり、それに基づいて相手の財産を差し押さえ(本差し押さえ)して、相手の財産をお金に変えることができます。
メリット
まず、この仮差し押さえするメリットは何かというと手続きが早いということになります。
申し立てから1週間程度、早ければ数日で仮差し押さえ命令が出るということもあります。
また、仮差押は其の性質上、債務者の財産隠しを防ぐいう目的もあるので、仮差押命令が出るまで債務者に、財産調査、法律手続きが行われているということが知らされません。
また、債務者の意見を聞くということもなく、突然、裁判所から通達されます。
それに、仮差し押さえして勝訴判決を得られれば、その金額が確保できる可能性が高いので仮差し押さえをした債権者にとっては、じっくり交渉に臨めるという点もメリットと言えると思います。
効果
仮差押は、差押に移行する前に、仮差押だけで、ただちに債権を回収できる可能性が高いので非常に強力な武器となります。
といいますのも、仮差し押さえをされると財産を自由に処分できなくなり、債務者に及ぼす影響が強く、交渉に乗ってくる可能性が生じます。
それに債務者は、裁判所が判断して命令が出ているので、裁判所が認めたという危機感を感じ、交渉に応じて支払いをしてくれる可能性が高まってきます。
このため、債務者は仮差押債権者に対し交渉し、「ただちに半分を支払うから早急に仮差押を取り下げてほしい」ということもあります。
仮差押の対象が土地、建物等の不動産の場合は、登記簿に仮差押の登記がされ、勝手に処分したり、売却したりすることが事実上できなくなります。
担保価値以上に抵当権の設定されている不動産に対する仮差押であっても、競売よりは任意売却のことが多いため、仮差押をしておけば任意に処分出来なくなり、「一部弁済するから仮差押登記を抹消してくれ」ということもあり得ます。
このように、仮差押というのはとても早くできて効果も高い手続きですが残念ながら厳しい申し立て要件があります。
申立要件
仮差押の手続は、債権者が裁判所へ申請書面を提出し保証金を積めば、簡単に、債務者の事情に関係なく一方的にできます。
差し押さえられる側からすれば相手の意見を聞かないで進めていく手続きなので、実際に本当に債権があることがきちんと証明されてないのに差し押さえされたら相手が不利益を被る恐れがあります。
従って、本当に仮差押が正しいものだということを、きちんと裁判所にわかってもらうために、仮差押えを申し立てるには、裁判所にきちんとした証拠を出さなければいけません。
裁判所に迅速に仮差押命令を出してもらうためには、保全すべき権利の存在と保全の必要性を、裁判所に一応確からしいと推測できるような証拠や資料を示して認めてもらわなければなりません。
そのために申立書を作成して、契約書などの資料とともに提出する必要があります。
裁判所に保全すべき権利の存在と保全の必要性が認められると、申し立てから1週間程度の間に担保を提供しなければなりません。
事例によって異なりますが、保証金として保全したいと思っている債権額の、不動産であれば固定資産税評価額の1割から3割くらいの金額を法務局に供託するいう手続きなどを取る必要があります。
この保証金が用意できないと仮差押はできません。
このように慌ただしい手続きになりますのであらかじめ準備をしておく必要があります。
デメリット
ただし、仮差押には優先権というものはありません。
例えば、他の債権者が仮差し押さえ、また、差し押さえをしてきたということになると順位を保全する力がないので早い者勝ちというわけにはいかないことです。
債権者は、債務者が自己破産をしようとするときにも仮差押する場合があります。
しかし、債務者が破産してしまったり、民事再生をしたような場合、仮差押をしてれば優先順位が一番で全部取れるということではありませんのでご注意ください。
この場合、相手の財産を分け合うということになります。
まとめ
このようにデメリットもありますが、効果も高いので仮差押をしてみようと思う方は、相手の財産がどのようなものがあるのか確認してみてください。
このような仮差押の特徴を踏まえてあなたの債権回収に役立てていただければと思います。
仮差押は、法律的には複雑な手続きですので、弁護士さんに依頼してやるようになるのかなと思います。