「親から相続した不要な不動産だけを相続放棄することはできるのか?」を解説いたします。
結論としましては、相続する予定の土地がいらないからといって、残念ながら一部の不要な不動産だけを相続放棄するということはできません。
例えば、山奥の田舎にある価値のない土地などは基本的に誰も欲しがりませんから売却することも難しく、所有しているだけでコストがかかります。
相続しても困る田舎の土地が財産のほとんどを占めている場合には、確かに相続放棄も選択肢の一つになるでしょう。
全部放棄
まず、相続放棄は0か100の世界で、相続財産の中に相続したくない財産が含まれていたとしても、相続財産の一部のみを対象として相続放棄することはできず、財産は一切相続できません。
「相続放棄」は裁判所で行う手続きで、相続する権利を全て放棄するという法的効果が発生します。
つまり、不要な不動産を相続放棄したいなら、それ以外の預貯金など、全ての財産を引き継ぐことができませんし、預貯金なども相続したいなら、不要な不動産も全部相続しなければいけません。
全員放棄
次に、相続人のうちの1人が放棄をしたとしても、その他の法定相続人が相続を放棄したことにはなりません。
相続を放棄すると、放棄した相続人に子供がいても代襲相続はできず、法定の相続順位の順番通りに相続権が移動していきます。
誰かが相続放棄すると、法定相続の順位が第1順位の子→第2順位の父母→第3順位の兄弟姉妹へと移り、最初は相続人でなかった人が相続人となってしまいます。
次の順位の相続人も同じように相続放棄をする必要があります。
従って、トラブルを避けるためにも全員が相続放棄するときは、放棄によって相続人になる可能性がある全員と連絡を取り手続きする必要があります。
ではその場合、相続不動産はどうなるのでしょうか。
最終的には、相続不動産は「国庫に帰属」しますが自動的に国のものになるわけではありません。
例えば、親の相続財産が田舎の不要な土地が相続財産のほとんどを占めており、現金がほとんど無く、全ての土地を放棄したとしても、民法の定めにより相続人には引き続き不要な土地の維持管理義務があることに注意しなければなりません。
もし、相続放棄した元相続人が不動産の管理を懈怠することで周辺に損害を与えたりすると、債権者や周辺住民などから損害賠償請求を受ける可能性もあります。
相続財産管理人の選任の申立て
管理の負担から解放されるためには、相続人全員が放棄した後、最後に相続放棄をした方が「利害関係人」として家庭裁判所に対し、亡くなった方の財産を相続人の代わりに管理処分してくれる「相続財産管理人の選任の申立て」をおこない、その相続財産管理人に親の不動産を管理と処分してもらう必要があります。
相続財産管理人の選任申立てをすると、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。
そしてこの選任が承認された際には、相続財産管理人に財産を引き渡して土地建物や山林の管理をしてもらうことになり、不動産の売却処理や国庫返納手続きまでしてもらえます。
ここまでの手続きをして初めて相続放棄者は財産の管理から解放され、不要な土地や山林から解放されることになります。
相続財産管理人は、被相続人の特別縁故者などがいないかを調査して、それでもなおこれらの利害関係人が見つからない場合に最終的に国庫に帰属することになります。
しかし、相続財産管理人制度は予納金が高いというデメリットがあります。
この予納金とは、申立人が相続財産管理人への経費や報酬としてあらかじめ裁判所に納めるお金のことで、その金額は家庭裁判所が決めるのですが、事前に数十万円から百万円程度の予納金(最終的に余った分は返還されますが)を支払うことが必要です。
この相続財産管理人は、弁護士、司法書士等が選ばれることもあります。
相続人は現金の他、一切の財産を相続放棄しているわけで、相続財産管理人の予納金を支払う必要があるというのは、相続人にとって、かなりのデメリットです。
また、相続財産管理人の申立てから国庫に帰属するまで一年以上もの期間がかかりますので、少しエネルギーのいる手続きになります。
「相続放棄したから関係ない」と思いたいところですが、相続財産管理人を選任してもらう手続きまではしなければなりません。
固定資産税の手続き
誰しも不要な不動産のために固定資産税を支払ったりすることは苦痛になることでしょう。
全員が相続放棄をして相続人が不存在となった場合は誰も固定資産税を払う必要はありません。
しかし、そのまま何もしないでいると引き続き、固定資産税が課税されます。
課税されないようにするためには、相続放棄をしたことを証明する相続放棄申述受理証明書や相続放棄申述受理通知書等、相続放棄が完了したことを証明する書類を固定資産課税台帳を管理する市区町村に提出する必要があります。
それによって、相続放棄したことを証明できれば、納税通知が来ません。
限定された管理責任
現行法ではすべての相続放棄者に管理責任を負わせていますが、改正法では、相続放棄時に相続財産に属する不動産を「現に占有」している相続放棄者に限定して責任を継続して負わせることにしているため、相続人が実際に占有していない相続不動産については、管理義務がなくなりました。
例えば、相続財産が土地建物であれば、居住していなかった相続人が相続放棄をしたときなどがあたります。
生前贈与対策
相続したくない不動産がある場合は生前対策しておくことをおすすめします。
「実家だけは手放したくない」などの事情がある場合には、必要な現金や実家だけを前もって贈与をしておくのがよいでしょう。
必要な財産だけを生前贈与しておけば、相続発生時に他の財産を相続放棄すればいいわけです。
このように、生前に一定の準備をすることで一部の資産を相続人の手元に残した上で相続放棄を行うことができる場合もあります。
しかし、生前贈与は贈与税が課税されるため注意が必要です。
但し、一定の範囲で減税の制度を利用することができますで、司法書士に不動産の名義変更手続きを依頼する前に税理士に相談してみましょう。